第54回 情報科学若手の会 開催報告

はじめに

2021年9月26日に第54回情報科学若手の会を開催いたしました。今年は新型コロナウイルス感染症の影響により、Zoomを用いたオンラインイベントとして開催致しました。事前のオンラインの申し込み者数と招待講演者を合わせた人数は93名にのぼり、様々な分野の発表を行い、活発に議論しました。

発表および議論

以下のような発表枠を用意し、議論を行いました。 本年は通常発表2件、招待講演1件、若手特別講演1件の発表がありました。

  • 招待講演: 50分 (質疑含む)
  • 若手特別講演: 35分 (質疑含む)
  • 通常発表: 20分(質疑含む)

発表一覧 (敬称略)

通常発表 1: 「Linuxの改造とパッチ投稿」 森瑞穂 (@morimolymoly) (電気通信大学)

今回はLinuxカーネルを実際にハックする過程を紹介しつつ、パッチを投稿するまでの一連の流れをご紹介いたします。 LinuxにJIS版Magic Keyboardを対応させるというパッチで、ちょっとニッチなところを攻めています。 HIDサブシステムの理解をぼんやりとしたところから始めて(ま〜じでドキュメントがない)、ある程度理解するまでに思考過程なんかもご紹介したつもりです。再現性のあるものなので身の回りのデバイスの挙動がおかしいときに応用できると思います。

招待講演: 「反転講演実験『学び方のデザイン 〜問題解決の選択肢を増やす』」 西尾 泰和 (サイボウズ・ラボ)

こんにちは、西尾です。情報科学若手の会は、自分も20代前半から何回か参加していて、懐かしく思っています。 そんなわけで今回招待講演を引き受けたわけですが、正直なところオンライン講演で一方的に喋るだけではあんまり皆さんにとっての価値につながらない気がします。参加者の皆さんはITリテラシー高めなのだから、もっとITを駆使してより良い体験を作り出していけないかを模索したいです。 そこで、今回は講演部分を動画として事前に共有し、みなさんが好きな時間に好きな再生速度で視聴できるようにします。反転授業という手法の応用です。みなさんは講演を視聴して疑問に思ったことなどを、いつでも好きなタイミングでScrapboxに書くことができます。講演を聞くことも質問を書くことも、同期的である必要がないので疎結合な設計にしたわけです。 イベント当日は同期的にしかできないことに注力しましょう。一方的な講演ではなく、パネルディスカッション形式で司会の方と対話的に進める予定です。

通常発表 2: 「Pythonを用いたPDFデータからの情報抽出」 青見 樹 (Sansan株式会社)

今回はPDFデータとの戦い方を紹介させていただきます。 データを扱うにはそもそもデータを取り出して、持ってこない限りは扱えないものが世の中にはいくつもあります。その内の一つがPDFデータです。 PDFデータはグラフ構造を持ったデータ構造になっており、テキストや中に含まれる画像・表等、カオスなデータの一つといっても過言ではないのでしょうか。そんなPDFデータから欲しい情報を抽出するためのテクニックの一つとして、Pythonで二つのライブラリをご紹介します。

若手特別講演: 「未修正の脆弱性の探し方 -世界平和を目指して-」 中島 明日香

ソフトウェアのバグの中でも、第三者が悪用可能なものを「脆弱性」と呼ぶ。脆弱性はサイバー攻撃の根本的な原因の一つであり、悪用されるとユーザに金銭や社会的な被害が及ぶ。そのため新しい脆弱性が発見された場合、パッチを配布/適用し脆弱性を塞ぐのが望ましい。しかし現実には、技術的/社会的/運用的な問題により、未修正となっている脆弱性が多数存在する。 本講演では、様々な理由から生じてしまった未修正の脆弱性(専門的には1-Dayの脆弱性と呼ぶ)を、いかに発見するかを主軸に話をする。具体的には、アセンブリレベルのマッチング技術や類似画像検索技術などを駆使して発見した、著名なシステム(Windows)や、著名なIoTベンダの製品の未修正の脆弱性を紹介する。

懇親会

ナイトセッションでは例年のオフラインでの懇親会の代替として、Discord のボイスチャットを用いた発表時間制限無しのLT発表を行いました。そこでは2件の発表があり、のべ参加者数は37人以上を数えることとなりました。 このほかにも多くの飛び込み発表があり、本会より長時間に渡る盛況となりました。

おわりに

参加者全員がいろいろなトピックに触れることができるとともに、異分野の研究者ならではの同分野と異なる視点での議論や新たな可能性についての討論など研究者の視野・研究者同士のつながりを広げることができ、有意義な会合となりました。

来年度も同時期に情報科学若手の会を開催する予定ですが、イベントの実施形態等は新型コロナウイルス感染症による情勢を鑑みて柔軟に検討したいと考えています。下記のWebページにて随時情報を更新しております。多くの方のご参加をお待ちしております。

情報科学若手の会 http://wakate.org

謝辞

招待講演を快く引き受けてくださいましたサイボウズ・ラボ 西尾 泰和 様、若手特別講演を引き受けてくださいました 中島 明日香 様、この若手の会開催にあたり様々な面からご支援くださいました明治大学 横山先生をはじめとするプログラミングシンポジウム幹事の皆様にこの場をお借りして深く御礼申し上げます。

幹事

  • 黒崎 優太 (株式会社サイバーエージェント)
  • 久下 柾 (東京都立大学)
  • 高橋 真奈茄 (ヤフー株式会社)
  • 武田 真之
  • 田中 京介
  • 和田 佳大 (株式会社サイバーエージェント)