第29回 情報科学若手の会 開催報告

第29回若手の会は1996年9月1日から2日、大学生協会舘、コープイン渋谷において、開催されました。参加者の関心が最もインターネットに高かったため、「インターネット、現在・過去・未来」というテーマで、3人のプレゼンテータに話題を提供していただき、28回に引続きディスカッション形式で会を進めました。

目次

  • タイムテーブル
    • ディスカッションの内容
    • ディスカッションA
    • ディスカッションB
    • ディスカッションC
    • ディスカッションのまとめ
  • おわりに
  • 謝辞
  • 第29回情報科学若手の会参加者リスト(2012.03.26現在不明)

タイムテーブル

  • 9月1日(1日目)
    • 13:00~13:45 開会式及び自己紹介
    • 13:45~15:15 ディスカッションA プレゼンテータ:馬場 始三(奈良先端科学技術大学院大学) 「災害時のインターネットの役割について」
    • 15:30~17:00 ディスカッションB プレゼンテータ:米津 光浩(慶應義塾大学) 「リゾームとしてのインターネット」 ~90年代サブカルチャーとしてのインターネット~

    • 17:00~18:00 「今日のまとめ」と「若手の会のこれから」

    • 18:30~ 夜の自由討論
  • 9月2日(2日目)
    • 9:00~11:00 ディスカッションC プレゼンテータ:松田晃一(Sony Computer Science Lab.) 「インターネット上の共有仮想空間」

    • 11:00~12:00 まとめ 及び 閉会式


ディスカッションの内容(A、B、C、及びまとめ)

ディスカッションA

奈良先端科学技術大学院大学の馬場始三氏に災害時のインターネットの役割についてという題で、馬場氏自身が携わっておられるWIDE Projectの第1回インターネット防災訓練の経験をもとに、災害とインターネットの関わり、社会基盤としての受け入れられ方についてお話いただいた。

インターネットは、過去から現在にかけては、学術研究用ネットワーク、特定コミュニティのネットワーク、一般の企業や個人の活動の場、政府や自治体の情報ネットワーク基盤、医療機器による医療情報を交換する場などとして利用されている。取り扱う情報が高度化、複雑化し、社会活動に不可欠な情報サービス提供ができるようになり、情報ネットワークの中心であるインターネットの社会的な役割と責任が増大したことを踏まえて、このプロジェクトは、都市型の大規模災害における、安否情報、被災者の衣食住に関する生活情報、被災者への支援情報、避難誘導、危機管理のための情報などをインターネットを利用して伝達するという考えに基づいているものである。

1996年1/17~18にかけて行なわれたインターネット災害訓練において、日本国内のネットワークユーザを対象とし、生存者情報データベースの登録・検索を行なう、IAA(I am alive)訓練、通信衛星を利用した丈夫なバックボーンネットワーク運用の試み(WISHBONE訓練)をおこなった結果の、課題がいくつかあげられた。ハード、ソフトそれぞれに対応が必要である。大規模な災害のために通信機能が麻痺し、通信できないのではインターネットを利用することができない。衛星、無線などを通してインターネットを利用できる方法が必要である。ソフトの面としては、災害のために、危機の状態ではそれほど人間に時間の余裕があるわけではないので容易にデータの作成などが可能にすることが必要であると考えられる。

このような話を受けて、ディスカッションでは、一般の人がいかに簡単に使えるようにするかという問題に対して、電話代が高いこと、インターネットに対して一般の人と研究者との解釈が違うことなどから、一般の人にとっては、インターネットを使うにはまだ敷居が高く、インターネットは社会的基盤になるにはまだまだ発展途上である。したがって、災害時に本当に役立つようにするためには、インターネットを普及させる必要があるということが一つあげられた。

また、災害のために危機の状態で、本当にインターネットを利用して生存を知らせることができるかどうかという問題に対して、一人一人にIDを振り分けて、その人がアクセスしたり、何かをしたら、生存が確認できるようにするなどという方法もあげられ、さらに、計算機資源だけではなく、電話、クレジットカードなどによって生存が確認できればいいというような意見も上がったが、カードの使用による生存確認などは災害時でない時には逆にプライバシーの侵害になるため、実用的ではない。また、カードは家族で使っていたり、メールは複数のアカウントがあるなどの不都合があるということで、メールはマシンに対してではなく、人に対して送られるべきでは?という話にまで発展した。

以上の議論から、次のような提案がなされた。インターネットを利用していない人の情報登録について。病院や避難場所や学校などを核にして組織単位で生存情報を集めて、それを情報ボランティアがまとめて登録する。

インターネット災害訓練に参加する。

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ディスカッションB

慶應義塾大学の米津光浩氏より、「リゾームとしてのインターネット」~90年代サブカルチャーとしてのインターネット~という題で、WWWサーバのセキュリティ、商用に安心して使えるか?などのセキュリティに関する問題、ホームページは出版か放送か?リンクは引用か複製か?検索した情報を公開してよいか?既成メディアによるホームページの権利侵害などの著作権・倫理問題から話が始まった。また、有用な情報を如何に取り出すか?ということで、高速な検索技術が必要であること。そのことにからめて、AIにとって、インターネットはToy Problemや積木の世界ではなく、大規模でオープンな世界であることから、今後のAIの研究対象とする世界が広がり、新たな研究トピックも生まれるのではないかという話もあった。

一番大きな話題として、インターネットは文化として発達してきているという話があった。学会ではあまり語られない、しかし学術団体などとは別側面からインターネットを支えているもの、研究でも商売でもなくインターネットを使っている人達、彼らを無視しては今後のインターネットを語れないのでは?という話である。

インターネット上では、子どもを体育館に集めて偉い人の演説を聞かせるようなホームページはすたれる、また、既成のメディアは「買え!買え!」の大合唱であり、そういうものに飽き飽きした人がインターネットという等身大のメディアを楽しんでいるのに、インターネットまで「買え!買え!」に埋め尽くさせていいのか?何かを集めるということを一度もしたことのないような人達は、ブームでインターネットにとびついても、去っていくだろう。そういう人達をあてこんで始めた商売も広告も、いずれすたれる。というような話であった。

最後に、本当にネットを必要としているのは、不登校の子どもたち、障害を持つ人達、既成メディアに載らなかったものではないか、つまり「何かに対して情熱を持っている人がインターネットに最後に残る」というまとめで終った。

ディスカッションとして、「何かに対して情熱を持っている人がインターネットに最後に残る」ということならば、今後のインターネット上には、これからはゲームが多く出て来るであろうという話になった。インターネット上で行なうマルチユーザ型のゲームである。しかし、やはり電話代が高いという敷居があることが再度あげられた。ホームページの写真を勝手に雑誌の表紙に使われた話については、無断で広い社会に出されたのも問題であるけれども、彼女たちは裁判にまではしない。その前に、もう話題にされるのがいや。という現象も生み出している。

つまり、インターネットは発展途上であり、インターネットになると何をしていけないのかという意識が薄いため、そのような事態が起こるのであろう。とようなことが話された。

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ディスカッションC

Sony Computer Science Lab.の松田晃一氏より、「インターネット上の共有仮想空間」ということで、実際に研究されているバーチャルソサエティプロジェクトの紹介にはじまり、「Cyber Passage」のサーカスパークのデモを見せていただいた。

このデモは、サーカスパークの一日を描いたものである。1人が1画面に対応しており、相手の姿が見え、対話もできる。後ろからの声も入る。ボタンがついており、いろいろな表情も表現できる。この世界では、時間という概念もあり、朝にはじまり、空の色が段々と暗くなっていく。そして、一日一回パレードもある。もちろん、音も出せる。看板が他のURLなどになっていて、リンクがはってある。世界の電気を消したりつけたりするスイッチがある。という、非常に面白いものであった。

バーチャルソサエティの応用として、Internet 3Dマニュアル、Internet火災訓練、Internet放浪癖、Internet遠足(体の不自由な人もディズニーランドにいける!)、Internet盆栽、Internet犬のブリーダ(日頃はローカルで育て、マルチユーザで品評会をする。)、Internet演劇、Internet私の部屋(好きなように内装を施して、人に見せる。ホームパーティを開く)などがあるのでは?という提案もあった。

ディスカッションとして、注目を集めたのは、この仮想社会において、戦争などが起こってくるだろうということである。この世界でのモラル、法律ができ、インターネット上の警察も現れるだろう。いったいどのような世界ができるのか、現実と仮想との区別がつかなくなる可能性も考えられ、非常に恐いという意見も出た。

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ディスカッションのまとめ

コンピュータは、以前は自己満足の世界であったものの、インターネットの発展に伴い、現在では世界へ大きく広がっていっている。技術が先行しており、人間がそれについていっていないところがあることも事実である。また、技術的なものを追っている部分から、法律など、倫理的な問題が問われるようになってきている。

ここで、技術を「作る」側と「使う」側の見解の違いは大きく、作る側の責任が問われる。

かつての科学者により発明された原子力が惨事を呼んだように、インターネットによって戦争が起きる可能性もある。技術者が誘導を行ない、ネットワークを正しく使うという必要性を責任をもって伝える必要があるという意見が出た。

それに対し、技術者がどこまで責任を持つべきかという話があった。技術者は「テクノロジー」は作っていくべきであるが、われわれが作った世界だからわれわれが責任を持つという考えは、われわれがこの世界ではすべてであるという考えに結び付きがちであり、危険であるという反対意見も出された。

「使う」側は、インターネットに対し、考え方が希薄であり、ネットワークをしっかりと把握しないうちに、乱用している。偽情報が行きかっていることから、「作る」側がそれに対してなにかすべきであろうか?という内容について、世界が滅びない程度の失敗を繰り返して、インターネット自身が成長していけばよいという考えと、自分達が提供したテクノロジーをしっかりとサポートする必要があるという考えがあった。

両者を合わせ持ちながら、インターネットは発達していくだろうというのが最終的なまとめである。「Internet上の文化を作ろう」という提案がなされた。最初は技術者中心になるのは仕方がなく、それから人が集まっていけば、自然と発展していくだろう。われわれは、「文化の伝導師」となるという意見に対しては、それでは、少しごう慢過ぎるきらいがあるとして、「文化の一端を担おう」くらいの気持ちを持ちたいという結論に達した。米津氏の話にあったように、「何かに対して情熱を持っている人がインターネットに最後に残る」であろうことから、ユーザが増えて使っていくうちに勝手に発展していくのが文化であるから、今それにのろうとしている人達への手助けができればわれわれにとっては一番いいのではないか…。それがわれわれにとって今一番大切なことではないか。ということで、幕を閉じた。

なお、今年度若手の会に参加者は、「インターネット災害訓練に参加する」というアクションを起こすことにした。参加者を集めるということも行なう。より多くの人にインターネットを利用してもらうということで、インターネットを広めるという役割も果たすことが出来る。

おわりに

毎年、参加者の所属が偏る傾向があるため、本年度からは複数の団体から幹事を募りました。

株式会社ベルシステム24様から、ご賛助をいただき、参加費を非常にお安くすることができましたが、遠隔地からの参加者に対する交通費の支給までできなかったためということもあり、遠隔地からの参加者が少なかったことが残念でした。来年度以降、遠隔地からの参加者に対しては、ある程度の金銭的補助を出すことによって、より多くの所属の方に参加してもらえることを期待したいと思います。

若手の会を全国大会などの大きな大会での一つの会場で開催できれば、交通費の面では参加もしやすくなるのではないかという意見もあります。

討論の形式が、通常のシンポジウムとは異なり個々の発表中心ではなく、自由なディスカッション形式であるためか、企業の方の参加が少なかったことも残念でありました。若手の会の意義を理解してくださり、今後、企業からも若手研究者の方に参加していただければと思います。

謝辞

若手の会の意義を理解してくださり、御協力いただきました株式会社ベルシステム24に感謝致します。有難うございました。

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Last modified: 12/28/96 Copyright (C) Chieko SHIRAI, 1996. All right reserved.