はじめに
2022年9月23日から9月25日にかけて、加藤山崎教育基金 軽井沢研修所(長野県北佐久郡)で、第55回情報科学若手の会を開催いたしました。全国より招待講演者を含む17名が現地参加・56名がオンライン参加し、様々な分野の発表を行い、 活発に議論しました。
発表および議論
以下のような発表枠を用意し、議論を行いました。 本年は、通常発表8件、ショート発表3件の発表がありました。
- 招待講演: 60分 (質疑含む)
- 一般発表: 発表30分+質疑10分
- ショート発表: 発表15分+質疑10分
発表一覧 (敬称略)
招待講演: 「インダストリーR&D ~産業界における研究開発の実際〜」 株式会社リクルート 竹迫 良範
アカデミアにおける研究の価値観とインダストリーにおける研究の価値観の違いとは。新技術開発をした際に論文化・特許化は必須なのか。良い研究テーマの探し方、インパクトのある研究の評価軸は何なのか。産業界でイノベーションにチャレンジし続ける生存戦略と、研究開発組織をマネジメントする際に必要となる考え方についてお話しします。
招待公演: 「世界中で使われるオープンソース・ソフトウェアを作る」 Blue Whale Systems PTE LTD 植山 類
世界中の開発者に定番ツールとして使われるようなOSSを作りたいと思ったことはないでしょうか? 私が書いたLLVM lldおよびmoldリンカはそのような定番ツールになっていて、大規模ソフトウェア開発では使われていない方が珍しいというくらい広く利用されています。この講演では、そのような定番ツールを作るための秘訣をお伝えします。
スポンサー発表 1: 「量子計算と組合せ最適化」 株式会社リクルート 棚橋 耕太郎
量子計算手法の一つとして注目されている量子アニーリングを使うと何ができるのか、最前線の実応用例や研究課題について紹介します。また、汎用量子コンピュータを使って組合せ最適化問題を解くための枠組みであるQAOA(Quantum Approximate Optimazation Algorithm)と、その可能性についても紹介できればと思います。
スポンサー発表 2: 「PFN のオンプレ計算機クラスタの取り組み」 株式会社Preferred Networks 薮内 秀仁
"Preferred Networks (PFN) では「現実世界を計算可能にする」というビジョンを掲げ、オンプレミスの計算機クラスタで日々シミュレーションや深層学習の計算を実行しています。 本発表では、クラスタをどう使いやすくしているか、どう効率的かつ公平に使っているか、どう信頼性高く運用しているかなどをテーマに、クラスタ開発・運用のおもしろさを紹介します。"
スポンサー発表 3: 「Safe at Any Speed: 高速パケットプロセッサの設計と実装」 Jane Street Capital 武田 真之
Jane Streetではプログラムを用いたトレーディングシステムの開発を長年行ってきました。金融市場の規模が大きくなるにつれ、これらのシステムに必要なレイテンシ・スループット要件はより厳しくなっています。その中で、証券取引所から送られてくる毎秒数百万にのぼるパケット数を処理するシステムを例に、見通しの良い設計と抽象化を実現しつつ、いかに必要とされるパフォーマンスを実現するかお話しいたします。
スポンサー発表 4: 「ユーザー体験を毀損せず収益は向上させる広告を実現したい」 LINE株式会社 栗本 真太郎
広告は幅広い領域で収益源として活用される一方で、ユーザー体験にもたらす影響も少なくない。本発表では収益源としての広告の必要性に触れ、次に広告によるユーザー体験への影響についていくつかの調査結果を紹介する。最後に、近年の研究成果を踏まえ、ユーザー体験を毀損せず収益を向上させる広告の実現に向けて目指すべき方向性を検討する。(本発表の内容は、所属先の事業等の内容は含まず、公開された論文などを元に登壇者の見解をまとめたものです。)
スポンサー発表 5: 「Zigでコンテナランタイム作ってみた」 LINE株式会社 井上 紘太朗
Zigで簡易的な低レベルコンテナランタイムを作ってみて思ったことを発表します
スポンサー発表 6: 「クラウドセキュリティについて」 株式会社サイバーエージェント 小笠原 清志
サイバーエージェントの開発基盤には自社で運用しているプライベートクラウドとAWSやGCPなどのパブリッククラウドがあります。 私達セキュリティチームはクラウド環境への認証基盤やセキュリティモニタリングのためのソフトウェアを開発運用しています。
私のセッションでは以下のようなことをお話できればと思います。
- クラウドセキュリティのための仕組み
- 実際にどういった攻撃があり、それをどう検知・対応したか
少しでも皆さんの開発ライフ(特にクラウド環境)の参考になればと思います。
一般発表 1: 「NICTに転職した私の半年」 情報通信研究機構 総合テストベッド研究開発推進センター 森 優輝
ふとしたことからNICTに転職して半年が経ちました。テストベッドの構築業務とコネクテッドカーの高効率なデータ収集に関する研究業務に関わることになった私がどんなことをしているのか、これら業務の紹介をしながらお話しします。
一般発表 2: 「電子辞書のアイデンティティを消す方法」 フリーランス 末田 卓巳 / puhitaku
(概要なし)
ショート発表 1: 「スマートフォン以降の学校における情報モラル教育に求められる内容の検討」 発表者非公開
情報社会の変化を鑑みると、学校における情報モラル教育は、時代に合った知識を提供することに留まらず、学習者が知識を更新し続けるための考え方を提供する必要があると考えます。本発表では、スマートフォン登場以前・登場以降の、身近な脅威や情報モラル教育の内容などの比較を通して、情報社会を生きる我々に求められてきた事柄・今後求められるであろう事柄を整理します。またこれを踏まえて、情報教育の目標の一つでもある「情報の科学的な理解」を通した情報モラル教育の方法の可能性を検討します。
ショート発表 2: 「AltJS を作るなら型変換を入れた方がいい」 神戸大学 cannorin
もし「我々の考えた最強の AltJS」を作ろうと思ったら,TypeScript の資産(主に DefinitelyTyped)を活用したくなるはずです.そのためには(明示的・暗黙的を問わず)型変換をサポートしないと大変つらいということを,いくつかの既存の AltJS を例に挙げつつ説明しようと思います.
ショート発表 3: 「GNNを用いたゲートレベルネットリスト機能分類」 熊本大学 木山 真人
GNN(Graph Neural Networks) は入力されたグラフに対するグラフ畳み込み演算により、グラフの特徴量を抽出し、グラフ分類を行える。 このGNNを使って、LSI設計で使用されるネットリストの機能推定を行った。 本発表では学習・推論に必要なRTLのデータセットの作成、学習方法の提案を行う。
LT発表
飛び入り発表ありの発表時間5分のLT発表を行い、7件の発表がありました。また、ナイトセッションも大変盛況となりました。
インターネットでの反応
ブログ記事
情報科学若手の会2022に参加した - SevenColoured
「第55回情報科学若手の会」で喋ってきました - がべーじこれくしょん
第55回情報科学若手の会で広告とユーザー体験に関する発表をしました - kuri8iveにいきてこ。
41. 若手の会/Novel AI by とにかくヨシ!(ポッドキャスト)
おわりに
参加者全員がいろいろなトピックに触れることができるとともに、異分野の研究者ならではの同分野と異なる視点での議論や新たな可能性についての討論など研究者の視野・研究者同士のつながりを広げることができ、有意義な会合となりました。
来年度も情報科学若手の会を開催する予定です。下記のWebページにて随時情報を更新しております。 多くの方のご参加をお待ちしております。
謝辞
招待講演を快く引き受けてくださいました株式会社リクルート 竹迫 良範 様、Blue Whale Systems PTE LTD 植山 類 様、スポンサーとしてご援助いただきました株式会社リクルート 様、株式会社Preferred Networks 様、Jane Street Capital 様、LINE株式会社 様、株式会社サイバーエージェント 様、この若手の会開催にあたり様々な面からご支援くださいました高知工科大学 松崎先生をはじめとするプログラミングシンポジウム幹事の皆様にこの場をお借りして深く御礼申し上げます。
幹事
- 武田 真之
- 久下 柾 (東京都立大学)
- 黒崎 優太 (株式会社サイバーエージェント)
- 田中 京介
- 和田 佳大 (株式会社サイバーエージェント)