はじめに
今年度の情報科学若手の会は、2000年9月10日より12日まで、草津セミナーハウスにおいて、「ネットワークコミュニティ」というテーマで行われ、全国から12名の参加を得ることができました。
会合の内容
会合では、Network Communityの定義、そこで使われるツール、匿名性やsecurityなどについて話合われました。
Network Communityとは
初日は、まずNetwork Communityというものの定義から始めて、その将来象および将来考えられる問題点について議論を進めました。
ここで言うCommunityとは、同じ趣味を持つ人達の集団を指すことが多いですが、情報が、または情報のみが、やり取りされる社会、情報交換の機能が強化された社会という定義も考えられます。
現状はNetworkの発達やNetworkに対する社会の対応に関しては過渡期にあると考えられますが、それ故の問題点として、infrastructureの整備や、著作権問題に代表されるような既存のsystemとの摩擦が挙げられました。
将来像としては、まず、知識(情報)の共有を進めたいという議論がありました。そのために、どのような知識を持っている人がどこに居るのかという情報を、(DNSのように)伝搬させていく方法などについて考えました。
さらに「もの」のやり取りと同等のことが実現できないか、という議論がありました。現状の例で言えば、電子的な送金というのは、実際に貨幣を送っているのではなく、情報だけがやり取りされていますが、実際に貨幣を送ったのと同等の結果を得ます。「もの」のやり取りと同等のことを実現するためには、encodingとdecodingの技術が重要になります。送金の場合は、送る金額という数値にencodingされ、受け手側に蓄えられた貨幣を引き出すことがdecodingになります。他の例としては、万能な調理機械があれば、レシピを送ることと料理を送ることを同一視できるわけです。画像や音声に関しては、既に実用上十分なencoding・decodingの技術があって、こうしたやり取りが行なわれていると考えます。
また、情報の形にできないもの、情報の形にすることはできても送りたくないもの、などについての議論や、contributionしないとdistributionを受けられないcommunityについて議論が行われました。
Mailing List・掲示版の将来を考える
2日目の午前中は、Mailing Listや(電子)掲示板の現状と将来について議論が行われました。
人の目を直接見ながら話すのとは異なるMailing List (Mail)では、いくらでも攻撃することができてしまうが、そのことが倫理の重要性を顕在化させてきたのではないかという指摘がありました。
また、push型の情報発信とpull型の情報発信という区別からの議論が行われました。例えば、Mailing ListやMail Magazineはpush型、掲示板は型ということになります。流量の調節は、push型の情報発信に対しては特に重要になります。
Mailing Listと掲示板の比較という点では、Mailing Listは個人のHD領域を消費するだけなので、いずれ掲示板に統合されるのでは、という意見や、逆に、掲示板の検索機能が貧弱な場合などには、手元に情報が残るMailing Listの方がよい、という意見が出されました。
隠語や顔文字という表現方法は他ではあまり見られないものです。このような、記号による表現についても議論されました。現状でも、iModeの出現によって、すでに表現の仕方(文化)が変化しつつあります。例えば、signatureをつけない、subjectの情報量が増えた、無駄な引用などがなくなった、といったことが挙げられます。表現の自由度を増すために、いろいろな文字が、例えばすべての仮名の小文字などが、欲しいという意見も出されました。
他に、暗号化Mailや暗号化掲示板、Videio Mailing Listやirc、icqのfilteringなどに関して議論されました。
Network Communityにおける匿名性
2日目の午後は、Network Communityにおける匿名性について議論が行われました。
まず、匿名であることの必要性と、実名を知らせることの必要性について議論されました。一般社会で匿名である場合はNetworkの上でも匿名であって欲しいという意見や、情報の信頼性のためには(発信者の)実名を知らせるべきであるという意見がありました。
匿名性を悪用された場合、これを追跡できるのは良いことか、という議論もなされました。
また、匿名性には2つの意味が考えられるという指摘がありました。すなわち、実際の個人との同一性(を隠すこと)と、Network上での(複数のアカウントやハンドル名を持つ場合の)同一性です。
信用を落とした人物は別の名前(アカウント)で、Networkの上に存在し得ます。そこで、実社会とは別の信用の築き方をすることになるかも知れないという意見も出されました。実社会では、まず信用して、傷付くと信用を落とすことになります。しかし、まず信用を築くことに時間を掛けなければならないという形にする必要があるかも知れないというのです。実世界の個人ではなく、Networkの上の人格を中心に考える議論が必要になるかも知れません。
cracking toolやsecurityについて
cracking toolやsecurityについても議論が行われました。
serverを立てるには免許を必要とするようにすれば、被害が減るかも知れないという意見や、それに対して規制するのは時代に逆行しているという意見などが出されました。
また、将来は専用端末だけになり、PCはわずかな(専門的な)人々のためのものになるだろうという予測が出され、そうなるといわゆるscript kiddiesといった攻撃者は減るだろうという意見も出されました。
まとめ
最終日は、これまでの議論を振り返ってみました。
知識(情報)のやり取りが進むと、趣味の近い人との間でしか話が通じなくなってしまうかも知れないという意見が出されました。どんな情報でも手に入る代わりに、filterを掛けて流量を制限する必要があり、そもそも知らない世界には入って行きづらくなるのではないでしょうか。
また、発信される情報にも初心者向けのものと専門的なものが混在していることも、検索の効率を下げる一因であろうという意見が出されました。発信者自身が何らかのタグ付けをする必要があるかも知れません。
さらにcommunity間のcommunicationについても考えられました。そのためにはcommunityの中身について発表していく、push型の技術や手段の提供が必要になるだろうという意見が出されました。現状では検索エンジンがこのような役割を(pull型ですが)果たしていると言えるかも知れません。
情報収集にはpushとpullの比率やfilteringが重要になると考えられます。
最後に、Network Communityの中に(情報のやり取りなどを行って)存在するRPGのキャラクタのような人格があることによって、communityの形成が促進されるだろうことが議論されました。また、この人格と現実の個人との遮蔽や、実現方法について議論されました。
おわりに
今年度は交通機関の弱い場所での開催ということもあり、参加者が思うように増えませんでしたが、会を通じて積極的な意見の交換がありましたので、有意義な会合となりました。
参加者一覧
最後に今年度の若手の会に参加して下さった方の名簿を添付します(敬称略)。
**氏名** | **所属** | **幹事** |
市川 祐輔 | 早稲田大学 | |
伊藤 一成 | 慶應義塾大学 | 幹 |
尾崎 祥子 | 慶應義塾大学 | |
筧 一彦 | 早稲田大学 | 幹 |
川田 洋平 | 早稲田大学 | |
小熊 寿 | 電気通信大学 | 幹 |
小久保 温 | 青森大学 | |
辰己 丈夫 | 神戸大学 | |
長 慎也 | 早稲田大学 | |
中村 嘉志 | 電気通信大学 | 幹 |
山口 文彦 | 慶應義塾大学 | 幹 |
渡邉 敬之 | 早稲田大学 | 幹 |