第48回 情報科学若手の会 開催報告

はじめに

2015年9月19日から9月21日の2泊3日の日程で山喜旅館 (静岡県伊東市) にて第48回情報科学若手の会を開催いたしました。 全国より招待講演者と若手特別講演者を含む52名が参加し、様々な分野の発表を行い、活発な議論が行われました。

発表および議論

以下のような発表枠を用意し、議論を行いました。 本年は、通常発表8件、ショート発表7件の発表を行っていただきました。

  • 招待講演:発表45分+質疑15分
  • 若手特別講演:発表30分+質疑10分
  • 一般発表:発表30分+質疑10分
  • ショート発表: 発表15分+質疑10分

9月19日

一般発表 1:「はじめてでもわかる!IoTの過去・現在・未来(特にホームネットワーク)」 北陸先端科学技術大学院大学 / 情報通信研究機構 湯村 翼

Internet of Things(IoT)は、日本語では「モノのインターネット」とも訳され、ウェアラブルデバイスや家電機器など身の回りのありとあらゆるモノがインターネットにつながるようになったことを指します。情報科学の分野においてIoTという言葉自体は一昔前から使われ、さらに古くはユビキタスコンピューティングやパーベイシブコンピューティングという呼称で概念が提示されてきました。本発表では、発表者の専門であるホームネットワーク分野を中心に、IoTの歴史を辿ることで、なぜここまでIoTが注目されているのかについてご発表いただきました。さらに、TRON電脳住宅などいまのIoTの源泉ともいえる研究にはじまり、IoTの普及に一役買った「Bluetooth Low Energyなどの通信・省電力技術の発展」「組込みコンピュータの小型化・高性能化」「ハードウェア製造コストの低価格化」「クラウドファンディングの登場」などの観点から、IoTの過去・現在・未来について議論を行いました。

ショート発表 1:「IoTで進化するミツバチとの交流」

発表者が大学時代に研究でミツバチを飼っていた際に、巣箱の監視を怠ったことで天敵のスズリガにより蜂群が壊滅してしまった苦い経験に基づき、最近なにかと話題にあがるIoTデバイスを利用して巣箱モニタリングシステムを構築し、自然との対話を目指したことについて発表していただきました。

一般発表 2:

非公開を希望される発表がありました。

一般発表 3:

非公開を希望される発表がありました。

ショート発表 2:「Alloyで学ぶ形式手法」

Alloyは仕様記述言語と呼ばれています。仕様記述言語についてWikipediaを見ると「ソフトウェアを設計・構築する際に、その仕様を記述するために用いる言語」と書かれていますが、実際にどのように書くのか、具体的にどのような用途で使うのかイメージしづらいと思われます。本発表では、仕様記述言語とは何かを説明し、実際に何個かの例を上げながらプログラムや実行結果を示し、最後には形式手法について紹介していただきました。

9月20日

若手特別講演:「ぼくらのプログラミングから、みんなのプログラミングへ」 産業技術総合研究所 加藤 淳

プログラマは一番長くコンピュータと付き合ってきた人たちであるため、プログラマはコンピュータを使った創作活動の未来について知っていると言えます。プログラミングの方法論を他のコンテンツ制作に応用できれば、より自由で協力的な世界がやってくるだろうと講演者は予想されています。一方で、プログラマは過去を引きずっているとも言えます。プログラミングを今より分かりやすくできれば、さらに多くの人が使える道具になります。本講演では、プログラミングのメリットをみんなが享受できる世界に向けた試みについて、過去・未来2つの観点から論じていただきました。

ショート発表 3:

非公開を希望される発表がありました。

ショート発表 4:「ワンスイッチWiiコントローラーの製作福祉機器におけるArduino活用」島根大学 佐藤 公治

本発表では、重度障害者向けのゲームコントローラ「ワンスイッチWiiコントローラ」について発表していただきました。重度障害を持つ方の中には、指やまぶたのごく小さな動きをスイッチ入力としてコンピュータを操作しているケースが少なくありません。随意的に動かせる身体部位が少ないので、ひとつのスイッチによる機器操作が一般的です。これまでスイッチ操作に対応したゲームは数多く存在していましたが、多くの場合ゲーム性に乏しく、楽しく遊べるものではありませんでした。そこで発表者らは、市販のゲーム機であるニンテンドーWii用コントローラをスイッチ操作で遊べるように、操作体系としてオートスキャン方式を採用した装置を開発しました。本装置の利用効果として、四肢の廃用防止が期待され、意思伝達が継続できQOLも維持できることが想定されます。発表ではデモや重度障害の方に協力していただいた評価実験の結果を交えながら、装置についてご紹介いただきました。

一般発表 4:「趣味でも使えるクラウド!」 Google Inc. 今城 健太郎

発表者が趣味プロジェクトやコンテストなどで利用し便利だったクラウドサービスを実例をあげながら紹介していただきました。具体的には、多くのユーザが使うサービスのためだけではなく、たくさんの計算リソースを短時間で効率的に利用したり、メンテナンスを簡単にできるクラウドコンピューティングサービスや、その上で成り立つチーム開発に欠かせないクラウドサービスなどを紹介していただき、非常に実践的なご発表をしていただきました。

一般発表 5:「ISPの作り方」 さくらインターネット株式会社 江草 陽太

“インターネット”に繋がるのは当たり前、欲しくなったら家電量販店で“インターネット”が買える便利な時代です。しかし、“インターネット”とは一体何なのか理解して利用している人、販売している人はどれぐらいいるのでしょうか。また、The InternetがAutonomous System (AS) の集まりからできており、互いに経路情報をBGPで交換してパケット交換が行なわれている、と正しく理解していても、ASを持つISPを作るにはどうしたらいいのか、ということはあまり語られることはありません。そこで本発表では、発表者が参加するAS59105を事例にISPを一から構築するチュートリアルをしていただきました。

招待講演:「IT×宇宙で何をしよう!?」 宇宙航空研究開発機構 館下博昭

シミュレーション技術などの「ITを活用した宇宙開発」はこれまでも進められてきたが、今後は、ITと宇宙を組み合わせることで、これまでにない新しい宇宙の利用を生み出していきたいと講演者はお考えです。既存の宇宙とITの関わりや、JAXA OPEN APIの活動などを紹介するとともに、参加者と宇宙とITを組み合わせて何ができるか議論を行いました。

ショート発表 5:「Use Open Data with SPARQL」

近年、オープンデータという言葉が話題です。しかし、その公開されているデータ形式や地方自治体のデータは利活用されていないように発表者は感じています。そこで本発表ではオープンデータの楽しみ方や便利さを解説していただきました。さらにCSV等で記述されたデータをRDF形式に変換するサービスを活用してRDF形式のデータを作成してグラフデータベースに格納し、実際にSPARQLを用いてオープンデータ検索するデモをしながら、オープンデータを活用するための知識や方法を紹介していただきました。

一般発表 6:「Denkinovelをどうして作り続けているのか」 株式会社ディー・エヌ・エー 加藤 龍

発表者がプログラミングを始めて半年後に公開したWebサービスであるDennkinovelは、音声・画像の演出を加えた小説を投稿できるサイトです。2年半の間、運営を続け、今もコードをアップデートされています。さらにiPhoneアプリも公開されました。 本発表では、初心者の頃の自分が書いたコードをどうメンテし続けるか、仕事のプログラミングとの違い、開発したもののOSS化、何のためにお金にもならないのに個人でWebサービスを作り続けているのか?についてお話しいただきました。

一般発表 7:「リッチラボの開発に集中するための開発環境」 リッチラボ株式会社 光野 達朗

システムの開発・運用を行っていると、新機能リリースで古い機能が壊れたり、5分で完了した修正のリリースは1週間後だったり、環境構築に時間がかかったり、属人化して自分しか作業できなかったり、マネージャーとの認識違いでリリース間近に慌てたりということで開発時間が割かれてしまいがちになります。エンジニアの本分はサービスの改良・改善・安定稼働の維持を行うことのはずです。新機能は素早く安全にリリースしたいのは誰もが考えることであり、環境構築やアラート対応も誰でも素早く簡単に「ボタンぽちっと」できるべきです。発表者の所属するリッチラボではこのような開発を邪魔する要素について、DevOpsの自動化領域、特にCI/CDと言われるアプローチで解決を図っています。本発表ではその取組を紹介していただき、自動化によるすてきな開発生活をご紹介いただきました。

9月21日

一般発表 8:

非公開を希望される発表がありました。

ショート発表 6:「ICTトラブルシューティングコンテストの紹介」 電気通信大学 森 勇輝

様々なシステムやネットワークを触っていると必ずと言っていいほどトラブルが発生します。ICTトラブルシューティングコンテストは、このトラブル解決に焦点を当てたコンテストであり、学生が主体となって運営されています。運営メンバーの一員である発表者が、ICTトラブルシューティングコンテストの概要と、その運用の苦労やノウハウなどについて発表していただいました。

ショート発表 7:「クラウドルータで斬り込め!おうちIoT」 津山工業高等専門学校専攻科 末田 卓巳

発表者は、各家庭にあるWi-FiルータがIoTデバイスのハブとなると考えています。そこで本発表では、手軽に入手できるWi-Fiルータを活用して、いま流行りのIoTを気軽に試せる環境作りについてご発表いただきました。

ナイトセッション

ナイトセッションでは、発表時間5分のLT発表を行い、10件の発表がありました。 このほかにも多くの飛び込み発表があり、ナイトセッションも大変盛況となりました。

SNSでの反応

Twitter

第48回情報科学若手の会 まとめ

ブログ

おおたさん 第48回情報科学若手の会2015に参加してきた

ゆむ (id:yumu19)さん 第48回情報科学若手の会に参加して「はじめてでもわかる!IoTの過去・現在・未来」を発表した #wakate2015

加藤 淳さん 第48回 情報科学若手の会に参加しました

ぃずみん (id:izumin5210)さん 第48回 情報科学若手の会 に行ってきた #wakate2015

なっちゃん (id:marin72_com)さん 第48回 情報科学若手の会に参加して発表してきた。

どくぴー (id:e10dokup)さん 第48回情報科学若手の会 #wakate2015 に参加してきました

hnmx4 (id:haneuma0628)さん 第48回情報科学若手の会に参加しました

スイ (id:uni745e)さん 第48回情報科学若手の会に参加してきました #wakate2015

decobisuさん 情報科学若手の会2015に行ってきた #wakate2015

みゅーみくすさん 第48回情報科学若手の会に参加してきた #wakate2015

発表スライド

加藤 淳さん 「ぼくらのプログラミングから、みんなのプログラミングへ」 インタラクティブ講演資料

加藤 淳さん 「ぼくらのプログラミングから、みんなのプログラミングへ」 スライド

Tsubasa Yumuraさん はじめてでもわかる!IoTの過去・現在・未来 (特にホームネットワーク)

なっちゃんさん Alloyで学ぶ形式手法

Kentaro Imajoさん 趣味プロジェクトでも使えるクラウド!

Yuuki Moriさん ICTトラブルシューティングコンテストのご紹介 in 第48回情報科学若手の会

Masahiro Hataさん IoTで進化するミツバチとの交流

おわりに

参加者全員がいろいろなトピックに触れることができるとともに、異分野の研究者ならではの同分野と異なる視点での議論や新たな可能性についての討論など研究者の視野・研究者同士のつながりを広げることができ、有意義な会合となりました。

来年度も同時期に情報科学若手の会を開催する予定です。下記のWebページにて随時情報を更新しております。 多くの方のご参加をお待ちしております。

情報科学若手の会 http://wakate.org

謝辞

招待講演を行って下さいました国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 館下 博昭様、 また若手特別講演を行って下さいました国立研究開発法人 産業技術総合研究所 加藤 淳様、 スポンサーとしてご援助いただきましたさくらインターネット株式会社様、 グーグル株式会社様、 更に、この若手の会開催にあたりご支援いただきました電気通信大学の岩崎先生をはじめとするプログラミングシンポジウム幹事の皆様、 招待講演者・若手特別講演者の謝金、交通費、宿泊費をご支援くださいましたプログラミングシンポジウム様 にこの場をお借りして深く御礼申し上げます。

浅野 智之 (ユーシーテクノロジ株式会社) 橋本 竜也 (大阪大学) 山下 美穂 (チームラボ株式会社) 小谷 大祐 (京都大学) 大島 孝子 (Cyber Z USA、 Inc.) 岩成 達哉 (東京大学) 辻 順平 (国立研究開発法人産業技術総合研究所) 黒崎 優太 (株式会社サイバーエージェント)