第47回 情報科学若手の会 開催報告

はじめに

2014年9月13日から9月15日の2泊3日の日程で山喜旅館(静岡県伊東市)にて第47回情報科学若手の会を開催いたしました。全国より招待講演者と若手特別講演者を含む51名が参加し、様々な分野の発表を行い、活発な議論が行われました。

発表および議論

以下のような発表枠を用意し、議論を行いました。本年はタイムテーブルを見直すことで例年よりも発表枠数を多く用意したため、通常発表10件、ショート発表3件と昨年よりも4件多く発表を行っていただくことができました。

  • 招待講演:発表45分+質疑15分
  • 若手特別講演:発表30分+質疑10分
  • 通常発表:発表30分+質疑10分
  • ショート発表: 発表15分+質疑10分

9月13日

ショート発表1:「Androidでかんたん生体認証!-タッチスクリーンバイオメトリクスの提案と実装」明石工業高等専門学校 泉将之

広く普及しているスマートフォンに着目し、指紋認証のように特殊なハードウェアなしに強固なセキュリティを実現するための手法として、ユーザの画面操作時のクセを利用し認証を行う「タッチスクリーンバイオメトリクス」の概要と実現方法、およびデモンストレーションを行っていただきました。

ショート発表2:「ないんたんの天気予報で用いている画像処理アルゴリズムについて」Google Inc. 今城健太郎

4 年前から実験的に公開している「ないんたんの天気予報」で予報に用いているオプティカルフロー検出アルゴリズムと、サービス運用のノウハウをご紹介いただきました。

ショート発表3:「クラウドとキャリア、ワークライフバランスについて」坪和樹

クラウドサービスの普及により、たった数名のエンジニアで膨大なリソースを管理するような時代が訪れています。これに伴い一人一人がネットワークやセキュリティを正しく理解して運用を行うことが重要となっています。今の若手世代がどうやってこういった知識を身につけていくか、また今後仕事を行っていく上でどのようなキャリアが考えられるか、ワークライフバランスをどうしていくかなどについて、利用者、提供者、双方の切り口で説明していただきました。またクラウドに関連した研究についてもご紹介いただきました。

通常発表1:「Parallel Processing, the Google Way」Google Inc. Kris Popendorf

並列処理にはMPIやMapReduceを用いるものなど、用途に合った様々な方法があります。その中でも、本講演ではGoogleが開発している「Flume」という処理系について、Web上の情報を集めることであるサッカーの試合情勢をリアルタイムに分析する例を用いて、わかりやすく説明していただきました。

9月14日

若手特別講演:「本当は楽しいインターネット」インターネットマルチフィード株式会社 川上雄也

インターネットは我々の生活に欠かせないインフラストラクチャになりました。全世界を覆い尽くす規模で展開されていて、なおかつ動き続けるこの地球最大のシステムは、ただただ機械同士が繋がっているだけではうまく動きません。そこには運用する人たちがいて、その上でビジネスを行っている人たちがいて、皆それぞれの思惑を持っています。インターネットの基本的な仕組みに加え、ネットワーク間の力関係や運用の現場の話など、普段「インターネット」を使っていても感じ取ることのできないインターネットの本当の姿とその魅力を紹介していただきました。

通常発表2:「セキュリティに終わりはない!~インターネットはデンジャラス?!~」インターリンク株式会社 小林裕士

日本のインターネットを守る活動に従事しながら得られた知見を、自動アップデートを悪用したマルウェアの送り込みの事例など、今そこにある危機をとりあげながら紹介していただきました。

通常発表3:「ネットワーク運用管理のための異なるログデータの統合管理システムに関する研究」大分大学 池部実

大学や企業における情報システムは、多数のサーバをベースとして運用されています。それらのサーバ群には、高い信頼性が求められています。管理者は、それらのサーバ群で出力されるログデータを解析することにより、障害原因の究明や、異常検知などに役立てています。しかしながら、LAN上に設置した各サーバのログ、クラウドコンピューティング環境上のサーバ、ハイパーバイザのログ、L2/L3ネットワーク機器のログ、トラフィックデータなどサーバ管理、ネットワーク管理において分析する必要のデータは多岐にわたります。このように、システムの大規模化、複雑化によって、様々な機器から多種多様なログデータが出力され続けます。そのため、管理者は、ログデータの中からすぐに必要なログを探し出すことが困難になってきています。そこで、管理者をサポートするために、サーバ管理・ネットワーク管理において必要となる多種多様なログデータを横断的に処理可能なシステムを構築することを目標とし、サーバやネットワーク機器をセンサとしてとらえ、様々なセンサから出力されるログデータを統合的に管理し、管理者へ提供するシステムを構築しているプロジェクトについてご紹介いただきました。

通常発表4:「Ruby言語向けJust-In-Time コンパイラRuJIT」横浜国立大学 井出真広

発表者が提案し実装されているRuby言語向けJust-In-TimeコンパイラRuJITについて、設計、実装、そしてその性能を示すためのベンチマークによる評価についてご発表いただきました。

通常発表5:「シュワルツ超関数としての信号処理理論」北海道大学秋田大

現在出版されている大抵の信号処理の教科書では、離散時間か連続時間かという点、信号が周期的であるかどうかという点によって信号を分けて扱っています。そして信号の周波数ドメインへの変換には信号の分類に応じてフーリエ変換、フーリエ級数、離散時間フーリエ変換、離散フーリエ変換という名前がつけられています。しかし、扱う信号からして分けられて説明されているがためにフーリエ変換と離散フーリエ変換の結果がどう対応付けられるのかが分かりにくくなってしまっています。そこで本発表では、信号を一括してシュワルツ超関数のある部分集合として扱う定義を新たに提案し、別々の名前がついているフーリエ変換が1つの定義で表せることを説明していただきました。また、超関数としての信号をフィルタ処理する上での難点について議論を行いました。

通常発表6:「単語をベクトル表現に変換する手法の紹介」明治大学 黒崎優太

私たちが普段扱っている言葉(単語)の意味を計算機で扱う事を考えた時に、そのままでは計算をする事ができないため、何らかの形で計算可能な形に変換しなければならないという問題があります。単語を数値表現に変換する手法は様々なものがありますが、その中でも特に、今年注目されている”Word2Vec”という手法をデモを交えながら紹介していただきました。

通常発表7:「構文解析のすすめ」奈良先端科学技術大学院大学 吉本暁文

自然言語処理で広く使われている統計的な係り受け解析の代表的なアルゴリズムについて、論文の解説なども交えて紹介していただきました。

招待講演:「サイバーセキュリティの世界に飛び込こもう!」独立行政法人情報通信研究機構 井上大介

情報通信研究機構(NICT)で研究開発中のインシデント分析センタ“NICTER”、対サイバー攻撃アラートシステム“DAEDALUS”、サイバー攻撃統合分析プラットフォーム“NIRVANA改”などのリアルタイムデモを交えながら、クールなサイバーセキュリティの世界をご紹介いただきました。

9月15日

通常発表8:「皆で楽しもう!電子工作」北海道大学 葛西紘貴

近年、Raspberry Pi、Arduinoにより電子工作の敷居はぐっと下がったように思われますが、電子工作にはソフトとハード両方の知識が必要であり、誰もが趣味で楽しむにはいくつか壁があります。ソフト屋さん・ハード屋さんそれぞれが得意な領域のどのような知識をシェアし合えば壁を取り除けるのか、ハード寄りの立場から考えた意見についてご紹介いただきました。さらにソフト屋さん・ハード屋さんの共同作業で実際に制作されたいくつかの作品についてデモを交えながら制作過程をご紹介いただきました。

通常発表9:「ブラック企業から学ぶMVCモデル」会津大学 廣戸裕大

MVCの設計には良し悪しがありますが、設計の善し悪しをホワイト企業、ブラック企業のソフトウェア開発プロセスのアナロジーを使って紹介していただきました。また、悪い設計はどこをどうすると質のよい設計になるのか紹介していただきました。

通常発表10:「高専生流突貫工事のススメplugicaで挑んだ高専プロコン」津山工業高等専門学校 末田卓巳

2013年度の全国高等専門学校プログラミングコンテストにチーム「plugica」として、電源コンセントを時間課金で利用するためのプラットフォームを提案して出場した発表者が、開発過程の紹介と、plugicaの内部仕様についてご紹介いただきました。またその過程で得られた、限られた期間で成果を上げるためのノウハウをご紹介いただきました。

LT・飛び込みセッション

例年通りLT・飛び込みセッションを行いました。塚本さんによるCode for Kosenという団体、畑さんによるミツバチと情報科学、太田さんによるネイティブアプリのJenkins運用について、大日向さんによるHPCのネットワークの話、加藤さんによるDenkinovelを運用する技術、今城さんによるimosh、井上さんによるSECCON向けNIRVANA風スコアサーバ、光野さんによるアジャイルの1手法スクラムなど、みなさまが普段取り組んでいらっしゃる事柄について多岐にわたる分野の発表を通して、活発な議論を交わすことができました。

SNSでの反応

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第47回情報科学若手の会2014 ツイートまとめ

ブログ

did2memoさん 情報科学若手の会2014の参加感想メモ+今後参加する人へのメモ #wakate2014

ota42yさん 第47回情報科学若手の会2014に参加してきた

decobisuさん 情報科学若手の会に参加してきた #wakate2014

こるくさん 情報科学若手の会 #wakate2014 に参加してきました

Yukio Saitohさん 第47回情報科学若手の会2014に参加しました

fishmeatさん 第47回情報科学若手の会に参加してきた

光野さん 第47回情報処理若手の会に参加してきました!

KNAKOさん 情報科学若手の会2014に参加してきた

くわーてぃさん 情報科学若手の会2014に参加して「家に帰ってブログ記事を書くまでが若手の会です」と言われたのでブログ始めました

発表スライド

川上さん 本当は楽しいインターネット インターネットの仕組みと運用

秋田さん シュワルツ超関数としての信号処理理論

imosさん ないんたんの天気予報と画像処理アルゴリズム

末田さん 高専生流 突貫工事のススメ ~plugicaで挑んだ高専プロコン~

その他

JPNIC News & Views vol.1236

おわりに

参加者全員がいろいろなトピックに触れることができるとともに、異分野の研究者ならではの同分野と異なる視点での議論や新たな可能性についての討論など研究者の視野・研究者同士のつながりを広げることができ、有意義な会合となりました。来年度も同時期に情報科学若手の会を開催する予定です。多くの方のご参加をお待ちしております。

謝辞

招待講演を行って下さいました独立行政法人情報通信研究機構 井上大介様、また若手特別講演を行って下さいましたインターネットマルチフィード株式会社 川上雄也様、スポンサーとしてご援助いただきました さくらインターネット株式会社様、Google様、更に、この若手の会開催にあたりご支援いただきました 電気通信大学の岩崎先生をはじめとするプログラミングシンポジウム幹事の皆様、招待講演者の謝金、交通費、宿泊費をご負担くださいましたプログラミングシンポジウム様にこの場をお借りして深く御礼申し上げます。

第47 回情報科学若手の会幹事

浅野智之(ユーシーテクノロジ株式会社) 曾川景介(WebPay 株式会社) 橋本竜也(大阪大学) 山下美穂(チームラボ株式会社) 小谷大祐(京都大学) 大島孝子(株式会社サイバーエージェント) 岩成達哉(東京大学) 辻順平(独立行政法人産業技術総合研究所)