第36回 情報科学若手の会 開催報告

概要

第36回目を迎える情報科学若手の会を、平成15(2003)年8月29日(金)から3日間の日程で、新潟県南魚沼郡湯沢町の「湯沢ビューホテルいせん」にて開催いたしました。今回は、学生21名と社会人2名、オブザーバ役としてお招きしました神戸大学発達科学部講師の辰巳丈夫先生を合わせて、24名の参加がありました。参加者が興味を持つ話題について時間をかけた質疑や議論ができるように、発表内容は前回と同じく下記の方法で参加者から募り、決定しました。

  1. 参加申込の際に、議論したい話題を(または、発表の可否を)表明してもらう
  2. 提案された話題について相談し、3つから5つ程度の話題を選択する。

今年はさらに、2.の議論を円滑に行うためにいわゆるWikiを開設しました。これは現在も運用されており、参加者や幹事を含めた関係者の情報交換や交流、議論、来年度の開催に向けた相談などに利用しています。また、今回の議事録やその補足なども掲載されています。

スケジュールと発表内容

8月29日(金)

15:00 - オープニング

15:15 - セッション 1:「情報科学と法律の関係」

##### 「ソフトウェアの発明」早稲田大学大学院理工学研究科 市川祐輔

昨年に知的財産戦略大綱が政府から発表され、ソフトウェア関連発明の保護と利用を図るように知的財産権の法改正がなされました。発表では、このような状況のもとで研究者も積極的に知的財産権を考える必要があると提議し、ソフトウェアに関する知的財産権の概略について説明をされました。それに基づき、知的財産権(特に独占排他権やアルゴリズムの特許権)の是非や現在の法制度または審査制度の問題点、意図しない権利の侵害に対応する技術や国際的な問題など、様々な観点について議論を交しました。

##### 「情報系学生が知っておくべき法律について」神戸大学大学院総合人間科学研究科 甘利淳一

インターネットの普及が人々に様々な恩恵をもたらした一方で、多くのトラブルが生じ増加しています。それらを回避するために、または遭遇した時のために必要な知識を身につけておく事は、専門家にも求められることであると提議し、主に著作権法やその権利に関する概念について解説していただきました。「何が罪にあたり、何がそうでないのか」という疑問について質疑を通じて解消しながら、引用や許諾の範囲に関する話から不正アクセスや情報の2次利用の問題へ議論が発展していきました。

8月30日(土)

9:00

##### 参加者の自己紹介

発表者以外の参加者について、興味や研究分野などを簡単に話していただく、自己紹介の時間を設けました。

10:30

##### 招待講演: 神戸大学発達科学部講師 辰己丈夫先生

辰巳先生ご自身の経歴や大学教員になられた経緯、学生時代の研究分野のご紹介から、現在の携わっていらっしゃる情報倫理やプライバシ、情報科教育についてなどの様々な話題についてお話し下さいました。また、大学入試センター試験の試験科目のひとつである「情報関係基礎」の問題を配られ、参加者各自で取り組みました。その問題内容や構成について評価から、日米間の教育体制の現状やその問題点についても言及されました。

13:45

  • セッション 2:「情報科学の技術的課題」

##### 「スタイルシートを簡単に書く方法」早稲田大学大学院理工学研究科 長慎也

ここで言うスタイルシートとは、CSSのような単なる装飾のためのものではなく、(XSLTのような)ロジックと見てくれの分離が可能なスタイルシートを(XSLTより)簡単に書く方法、という意味です。そこで、XSLTのようなスタイルシートの概念をもっている開発中のWikiクローン「SoyWiki」を提案され、これに対していろいろな意見の交換がなされました。

##### 「賢い計算機とは?」東京大学大学院総合文化研究科 副田俊介

「賢い計算機」を作ろうとする研究分野は人工知能として知られ、計算機科学の初期の頃から活発に行われてきました。人工知能は様々の成果を挙げて来ているが、対象とする分野が広がるばかりで、決定的と言えるアプローチは未だ見えてこないと提議され、そのアプローチや「賢さ」といった話題について議論が行われました。

##### 「プログラムの逆計算と逆変換」早稲田大学大学院理工学研究科 河邊昌彦

ソフトウェアにおいてある操作の逆の操作を行うことはよくあり、例えばUndo/Redo、圧縮/伸張、暗号化/復号化などがあげられます。これらは逆計算/逆変換の問題の一例であり、ソフトウェアの重要な一要素であるにも関わらず、逆認知度は低く体系化も研究途上と提議されました。発表では、これらの具体的な方法についてに解説され、その質疑応答や将来性について議論が行われました。

8月31日(日)

9:30 - セッション 3:「セキュリティ・プライバシの運用」

##### 「電子情報化社会におけるプライバシ問題」津田塾大学学芸学部情報数理科学科 三神京子、中村明日香

情報が電子化されることによって、情報の保存・検索・統合が容易になっています。しかし、この容易さから「ユーザの行動履歴からプライバシに関わるような情報を推測する」などの新たなプライバシ事象を生んでいます。発表では、リチャージが可能なプリペイドカード「Suica」を例に「カードを落とした時に何が起こるか?」を出発点として、ユーザの行動をトレースできてしまう問題を防ぐ方法や関連するプライバシやセキュリティの事例や問題について、様々な議論や意見交換を行いました。

11:15 - クロージング

謝辞

今回の開催にあたりまして、招待講演をお引受けいただきました神戸大学の辰巳丈夫先生、個人としてご援助をいただきました津田塾大学の小川貴英先生と東京大学の筧一彦先生、多額のご援助をいただきました慶応工学会様に深く御礼申し上げます。ありがとうございました。また、いろいろと面倒を見てくださり便宜を計っていただいております明治大学の石畑清先生をはじめとするプログラミングシンポジウム委員会幹事会の皆様に、この場をお借りして御礼申し上げます。

参加者一覧(敬称略)

  • 市川祐輔(早稲田大学大学院理工学研究科)
  • 渡部岳郎(新潟大学大学院自然科学研究科)
  • 大日向大地(新潟大学工学部情報工学科)
  • 平孝則(九州工業大学大学院情報工学研究科)
  • 吉永一美(九州工業大学情報工学部知能情報工学科)
  • 松田耕史(宮城工業高等専門学校)
  • 大山益弘(株式会社ATLシステムズ)
  • 市川本浩(奈良先端科学技術大学院大学)
  • 中平勝子(早稲田大学教育学部)
  • 上坂明未(津田塾大学大学院)
  • 三神京子(津田塾大学学芸学部情報数理科学科)
  • 長慎也(早稲田大学大学院理工学研究科)
  • 甘利淳一(神戸大学大学院総合人間科学研究科)
  • 増田慎吾(奈良先端科学技術大学院大学)
  • 宮本剛(奈良先端科学技術大学院大学)
  • 繁富利恵(東京大学生産技術研究所)
  • 中村明日香(津田塾大学学芸学部情報数理科学科)
  • 高橋慧(東京大学工学部電気系Bコース)
  • 副田俊介(東京大学大学院総合文化研究科)
  • 鷲田基(東京大学工学部電気系Bコース)
  • 河邊昌彦(早稲田大学大学院理工学研究科)
  • 河内崇(東京大学総合文化研究科)
  • 伊藤一成(慶應義塾大学大学院理工学研究科)
  • 辰己丈夫(神戸大学発達科学部人間環境科学科)