第35回 情報科学若手の会 開催報告

はじめに

去る2002年8月31日から9月2日にかけて、阿蘇山麓の長陽村にある九州工業大学の学外施設「長陽山荘」にて、第35回情報科学若手の会を開催致しました。台風により交通網に問題がありましたが、ほとんどの参加者の方々は無事に到着し、社会人3名、学生17名が集まって様々な発表及び議論を行ないました。また、九州工業大学の川原憲治先生に招待講演および御参加をお願い致しました。

発表・討論内容は、昨年同様御参加の方々から持ちよってもらったものです。ただ昨年とは異なり、より議論が深められるよう、提案のあった発表希望の内容に対して意見を募り、その中のいくらかを選ぶようにしました。

会場の関係で最終日には発表・討論ができない、また主催者側の不手際でスケジュールの変更を行なうなど、時間の面ではタイトな状況でしたが、発表者の準備して下さった資料に基づき、活発な議論が行なわれました。

ご援助及び安価な宿泊施設が使用できましたお蔭で、御参加の方々ほぼ全員に交通費支援を行なうことができました。招待講演を行なって下さいました九州工業大学の川原先生、会場使用に関して諸々の面倒を見て下さり、また個人としてご援助下さいました九州工業大学の小出先生、及び九州工業大学の学生の皆様、多額のご援助を頂きました慶應工学会様、この若手の会の開催に当たり色々と御面倒を見て下さいました明治大学の石畑先生をはじめとするプログラミングシンポジウム幹事の皆様に、この場をお借りして御礼申し上げます。

スケジュールと発表内容

8月31日午後

究極の検索インタフェースを考える 長さん(早稲田大学)

ほとんどの検索エンジンはブラウザ上で表現されています。これはプラットフォームを選ばず動作が軽いという長所を持つ反面、インターフェースが貧弱であるため検索結果に動きがなく、サーバー処理が多いという問題があります。そこで、より使いやすいインターフェースのため、クライアント側の処理を利用をすべきであるという提案がなされました。その際、どのような機能及び実装が必要であるかなどの議論がなされました。

Semantic web マルチモーダル対話/検索技術への応用 伊藤さん(慶応大学)

Semantic Webは、Web上にある文書などの意味を扱う技術として、近年その研究が活発になされるようになりました。発表では、最新の情報を踏まえた基本的な技術の紹介がなされました。これに基づき、必要とされる技術およびメタデータ作成のコストの問題、Semantc Webのメタデータの活用方法及びメタデータのインターフェースについて、そしてこの技術がどのような分野に対して適用可能であるか、などが議論されました。

9月1日午前

セキュリティに伴うプライバシ保護問題 繁富さん(津田塾大学)

電子情報は非電子情報に比べて扱いが容易なため、プライバシをどのように守るのかは重要な問題です。セキュリティを強くすればするほど、プライバシ保護に関してもより考えられなければならなくなります。この個人によって感じる差が非常に大きいプライバシについて、それぞれが持つ感覚を含めて、様々な議論を行ないました。SUICA、クレジットカードそして住基ネットなどの例や、個人情報の選択権、管理者による侵入および侵出の検知を含めた技術的な話題などが出されました。

真のThe Internetのために「エッジ病」をどう克服すべきか 渡部さん(新潟大学)

「エッジ病」とは、NIKKEI NETネット時評において小池良次氏が唱えた概念のです。昔から言われつづけていたことですが、インターネットの原理を阻害するサービス、例えばNATやPPPoE、CDNなど、が現実に広く使われています。これらは必要悪なのか、それとも新しい概念に基づく技術なのか、必要悪ならば如何にして解消すべきか、できるのか、そしてインターネットの原理を再定義すべきなのか。こうした観点の下議論を行ないました。制約を課してしまうと進歩を阻害してしまうのではないか、どんどん変化が起きていく世界なので基本だけ教えて自分で勉強して取捨選択してもらえばいいのではないか、など、教育を含めた話題が出されました。

9月1日午後(1):招待講演

通信トラヒック理論の紹介とトラヒックエンジニアリングの現状 川原先生(九州工業大学)

インターネットに代表される通信ネットワークの性能を定量的に評価を行なう方法として、通信トラヒック理論(待ち行列理論)についての概念と有効性の紹介、研究トピックスとしてのネットワークにおけるトラヒックエンジニアリングの現状、そして通信トラヒック理論を適用した性能評価例をご説明下さいました。M/M/1システムやM/M/1/Kシステムなどの基礎的なモデルから、エンジニアリングとしてのQoSを考慮したインターネットなど、ネットワーク性能に関して広範の話題をご教授下さいました。

9月1日午後(2)

情報科学・情報工学分野における大学院生の教育と研究 飯田さん(奈良先端大)

この分野における日本の研究開発水準を向上するためには、大学院生の教育に力をいれる必要があります。また、大学院生の教育は研究と切り離して考えることができません。大学院生が身につけるべき能力は何か、研究を成功させるためにはどうすればよいか、教官は大学院生に対してどのように接するべきか。米国での大学院生の研究活動と比較しながら、大学院生の教育と研究の手法について議論を行ないました。「徹底指導」と「放任」、また研究対象が“Great Idea”から“Natural Idea with Intensive Study”へと移行してきているのではないか、などの話題が出されました。

情報系学生として必要なものとは? 蟻川さん(奈良先端大)

様々な分野の学生を受け入れる大学では、学生の持つバックグラウンドも様々のため、いろいろな点で学生は苦労を強いられることがあります。基礎知識が欠乏している場合、教授陣からアドバイスを頂いても、何のことか理解できずに苦しむことも多くあるわけです。そこで、「様々なバックグラウンドの学生がいる」ということを前提に、情報系学生としてはどんな内容を基礎知識として見につけるべきか、基礎知識を身につける方法、また手段として論文紹介輪講は必要かどうかについて議論を行ないました。情報科学においてどのようなものが基礎に相当するのか、効率的に知識を身につけるにはどうしたら良いのか、そこでインターネットなどが果たせる役割は何か、などの話題が出されました。

9月1日午後(3)

クラスタコンピューティングとソフトウェア分散共有メモリ 立川さん(九州工業大学)

研究上の情報収集を含め、どのくらいの潜在的ユーザがいるのかといった並列処理システム自体の将来的なヴィジョンや、そういう基盤技術をゼロから研究する場合の研究者としてのモチベーションなどについて議論を行ないました。並列処理に関して基礎的となる様々な手法や、動的スケジューリング法に関してどのように研究を進めていくのが良いか、などの話題が出されました。

その他

大学所有の研修施設のため、食事は準備されず、夕食は外に食べに出かけることとなりました。また夜には親睦会や花火で楽しむなど、セッション中だけでなくお互いに研究を含めた様々のことを話し合う機会が得られたと思います。 開催形式について

参加者皆様に発表してもらう形式としました。このため、分散処理から産学共同、教育、分子計算、通信、理論、言語処理、検索など、さまざまな内容の発表を聞くことができました。その一方で、ひとつの発表あたりに割り振られる時間が短くなってしまったため、なかなか議論に時間が割けない、という状況が発生してしまいました。

これについては、参加者にはひとまず自分が発表するとしたら何を話すかをまず聞き、その後でその発表内容から聞いてみたいもの、議論してみたいものを参加者に投票で決めてもらうのはどうか、という意見を頂きました。また、議論重視のセッションと発表重視のセッションとを分けて準備しても良い、ただ発表の分野について範囲を区切ってしまうのはデメリットが大きそうだ、という意見もありました。

おわりに

数年ぶりに関東を遠く離れての開催となりましたが、様々の方々の御協力により昨年よりも多くの方々が御参加下さいました。また、ある程度発表・討論内容の数を減らしたこともあり、昨年よりも濃い議論ができたのではないかと思っています。今後もより良い会合になるよう、幹事一同努めたいと思います。

参加者一覧

**氏名** **所属** **備考**
蟻川 浩 奈良先端科学技術大学院大学 発表者・幹事
飯田 勝吉 奈良先端科学技術大学院大学 発表者
市川 本浩 奈良先端科学技術大学院大学
市川 祐輔 早稲田大学大学院理工学研究科 幹事
伊藤 一成 慶応義塾大学大学院理工学研究科 発表者・幹事
伊藤 光祐 九州工業大学大学院工学科研究科 logal arrangement
乙=1 瑞紀 九州工業大学 1 口偏に羊
大日向 大地 新潟大学工学部
筧 一彦 東京大学大学院情報理工学系研究科 幹事
川原 憲治 九州工業大学情報工学部電子情報工学科 招待講演者
串橋 秀和 九州工業大学電気工学科
小出洋 九州工業大学大学院工学研究科 local arrangement
副田 俊介 東京大学大学院総合文化研究科
立川 純 九州工業大学大学院情報工学研究科 発表者
谷口 慶介 九州工業大学大学院 local arrangement
長 慎也 早稲田大学大学院理工学研究科 発表者
繁富 利恵 津田塾大学大学院理学研究科 発表者
古川 尚 九州工業大学大学院工学研究科
松井 洋 慶応義塾大学大学院
松崎 公紀 東京大学大学院情報理工学系研究
渡部 岳郎 新潟大学大学院自然科学研究科 発表者・幹事